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東京高等裁判所 昭和52年(行ケ)149号 判決

事実及び理由

一  請求の原因一ないし三の事実は当事者間に争いがない。

二  そこで、原告主張の審決取消事由の存否について検討する。

1  取消事由1の点について

実用新案登録の無効審判事件において、実用新案登録が実用新案法第三条第二項の規定に違反してされたものであるか否かが争われている場合には、審決が、まず、その考案と引用例に開示された技術との構成上の異同について検討を加え、両者の間に差異がある場合には、その点を具体的に明らかにすべきであることはいうまでもない。このことは、たとえ審判請求人において当該考案と引用例に開示された技術との間に存する構成上の差異について特段争わない場合であつても同様である。したがつて、本件審決が、本件考案と第一引用例ないし第八引用例に各開示の技術との構成上の相違点について順次論じていることは当然である。

ところで、審決は、右のように構成上の相違について明らかにしたが、その作用効果については、前記構成に基づく特有の作用効果を当然に有すると認めるとのみ述べたにとどまるところ、本件においては、これが、よし簡略のきらいがないではないとしても、審決が、本件考案に関する作用効果としていわんとするところは、本件考案が各引用例のものとの間に右のとおり相違点があり、また、本件考案がダイス6のみによつてストツパーを形成する点では、第一引用例ないし第八引用例のいずれのものとも相違し、右各引用例にはその記載又は示唆がされていないことを前提として、右各引用例との構成上の差異に対応して、各引用例とは異なる作用効果を奏するとした趣旨であることは、その前後の叙述内容に照らして明らかである。そして、成立に争いのない甲第二号証(本件考案の実用新案公報であり、その明細書及び図面が掲載されている。)には、その作用効果について記載されており(第二欄一七行ないし第四欄一行)、審決のいう構成上の差異に対応する作用効果も、これを出ずるものではなく、当業者であれば、これから容易に推知しうるものと解せられることを考えると、審決は、その摘示する構成上の差異とこれに対応する作用効果とから、本件考案について進歩性を肯認したものであるから、審決に実質的に理由を付さない違法がある、ということはできない。

2  取消事由2の点について

(一)  まず、本件考案と第三引用例のものとを比較検討する。

成立に争いのない甲第五号証によると、第三引用例には、「左右両方のねじをローリングできる転造機」と表示された両端ねじ転造機の写真が掲載され、その説明記事として、「この新機種は、左右両端にローラダイスと固定のセグメントダイスを新たに設置し、直線切断された素材を自動供給しながら、一分間に一二〇本の転造ができる長物用両端ロータリーローリング=両端転造機である。」と記載されており、しかも、転造線径、製品の長さ、左右ダイスの間隔調整が容易であることなど、機械の性能等についても記載されているところからすると、第三引用例には、ローラダイスと固定のセグメントダイスとによつて、上部ホツパーから間けつ的に自動供給される丸棒の両端部に、同時転造により両端ねじ棒を作るロータリー型転造盤が開示されていることが認められる。そうすると、第三引用例のものが本件考案と相違するのは、そのセグメントダイスが本件考案におけるストツパー形成用ダイスを欠いている点のみであるということができる。

被告は、右引用例には、ホツパーの存在が確認できない旨主張するところ、これに掲載された写真は必ずしも鮮明ではないが、同引用例には、前認定のとおり「素材を自動供給しながら、一分間に一二〇本の転造ができる……転造機である。」との記載があるのをはじめ、右写真の機械上部の銘板が付された部分は、その形状が頂板部のない長方形の箱状(四角筒)をなしていることなどからすると、第三引用例の転造盤には素材供給用ホツパーが設けられているものであることは、当業者であれば、容易に読みとることができるものとするに妨げがない。

(二)  そこで、本件考案における、丸棒の両端にねじを形成するためのねじ形成用ダイスに、ストツパー形成用ダイスを並設した構成について考える。

まず、成立に争いのない甲第三号証によると、第一引用例には、両端ねじ棒の左右のねじの内側にストツパーを形成した両端ストツパー付ねじ棒が記載されており、これからすると、本件考案の登録出願前に、このような両側ストツパー付ねじ棒が公知であつたことが認められる(別紙図面(2)(〔編註〕省略)参照)。次に、成立に争いのない甲第一〇号証によると、第八引用例には、ねじに隣接したストツパーのあるストツパー付ねじ棒を、別紙図面(3)(〔編註〕省略)のように、ねじ形成用ダイスに並設した対向する突条ダイスによつて、同時に転造するロール型転造盤が記載されていることが認められる。また、成立に争いのない甲第四号証の一ないし三によると、第二引用例には、各種ねじ転造用機械に関する解説として、ロータリー型転造盤とロール型転造盤とについて記載されており、ねじの転造法として右の各装置ないし方法の存在することは周知であると認められる。

そうしてみると、右のような周知又は公知の技術の適宜な組合せとして、右の転造盤の一方であるロータリー型転造盤を選択したうえ、丸棒の両端にストツパー付ねじを形成するために、前(一)に述べた第三引用例におけるロータリー型転造盤のロールダイス及びセグメントダイスの双方に、前記のような突条付ダイスを並設することは、当業者であれば、極めて容易に想到できるものというべきであり、このような選択に当り困難性が存するとすべき事情は見当らない。

(三)  進んで、本件考案におけるストツパー形成用ダイスをセグメントダイス側にのみ並設した構成について考える。

本件考案には、当事者間に争いのない考案の要旨からも明らかなとおり、ストツパー形成用ダイスが、セグメントダイス側にのみ並設されており、ローラダイス側にはこれが存しない。ところで、一般に被加工材の挾圧支持力が充分であれば、その支持部に近接した部分への加工であつて、その加工圧力が挾圧支持力に比べ充分小さい場合には、右近接部分の加工圧力付与側の反対側に特段受部材を設けなくとも差支えないことは、機械加工技術分野における技術常識であると考えられる。(このことは、例えば、成立に争いのない甲第一七号証第二〇頁の第二九項に示されたボールレース溝と両端のR面取りとの同時転造の技術例に徴しても、うかがうに十分である。)本件考案は、ローラダイス4とセグメントダイス5とにより丸棒の両端部に所要の長さのねじを同時に転造するものであるから、その両端部のねじ成形部分は、当然にローラダイス4及びセグメントダイス5により充分に挾圧支持されるもの、換言すれば、被加工材である丸棒を、ローラダイス4及びセグメントダイス5により、両端部において充分に挾圧支持するものであり、同時に右ねじ部分の各内側に同ねじよりも大径のストツパーを転造するものではあるが、右ストツパーは、ストツパーの性質上、ねじから離れた位置にしかも多数個形成するような特段のものではなく、ねじに近接した位置に各一個だけ形成すれば足りるものであるから、ストツパー形成用ダイス6によるその転造圧力は、ねじa部分の転造圧力(ロールダイス4及びセグメントダイス5による挾持圧力)より充分小さいものと考えられ、しかも、被加工材である丸棒が相応の強度を具備すべきものであることはいうまでもないから、ストツパーbの転造に際して、ダイス6の対向側に更にダイスその他の受部材を設けなくとも差支えないであろうことは、当業者であれば極めて容易に考えつくことであるというべきである。

もつとも、前掲甲第二号証及び弁論の全趣旨によると、本件考案におけるストツパーbは、ねじaの単位(一個)当りの山に比べれば比較的大きく、したがつて、その転造圧力も大きいものとみられるが、同ストツパーは右のとおり一個であるのに対し、ねじaの山数は多数であるから、両者の転造圧力には相当大きな差があるものというべく、この点は、右の判断を左右するに足りず、他にこれと別異に解すべき特段の事由は見当らない。

(四)  ところで、被告は、本件考案は、第一引用例ないし第八引用例にはない特有の作用効果を奏しうるものであるから、右各引用例からは容易に推考できないものである旨主張するので、この点について検討する。

(1) 被告主張の(1)の点について

前掲甲第二号証によると、本件考案は、被告が(1)において主張するところの構成により、その主張する<1>ないし<3>の作用効果を奏するものであることが認められる。しかし、前(一)に認定のとおり、第三引用例に開示の転造盤は、ローラダイスと固定のセグメントダイスとによつて、上部ホツパーから間けつ的に自動供給される丸棒の両端部に対する同時転造により、両端ねじ棒を作るものであるから、これにストツパー形成用ダイスを並設することに想到すれば、被告のいう、<1>ないし<3>の作用効果は、すべて当然に生ずるものであつて、それ以上のものではないから、右作用効果が予想外のものということはできず、したがつて、これが本件考案に特有のものであるということはできない。

(2) 被告主張の(2)の点について

前掲甲第二号証によると、本件考案は、被告が(2)において主張するところの構成を備えたものであることは明らかである。これに対し、前掲甲第一〇号証によると、第八引用例のものは、ローラダイスのみによつてねじの転造を行ういわゆるロール型転造盤であり、また、成立に争しのない甲第一六号証によると、これに開示された両側のストツパー付ねじ加工装置は、ローラダイス側にストツパー形成用ダイスが並設されている点において本件考案と異るものであることが認められる(別紙図面(4)(〔編註〕省略)参照)。

したがつて、本件考案は、明細書に直接の記載はないけれども、第八引用例のものや甲第一六号証に開示のものに比べ、被加工物への喰付きが良好、円滑に行われ、ひいて、転造能率を向上させることができるものと解せられる。しかし、このような作用効果は、いわゆるロータリー型転造盤がいわゆるロール型転造盤に対比して有する一般的な作用効果であつて、本件考案に特有のものであるということはできない。

ところで、被告は、本件考案が精度のよい正確なねじを転造するために、ローラダイスとセグメントダイスとの間の通路への丸棒供給の時期をローラダイスとセグメントダイスの位相の合うときと合致するような設計にしたものである旨主張する。しかし、前掲甲第二号証によると、本件考案の明細書中考案の詳細な説明部分には、「……丸棒13の供給は正確で、常にそのねじaの長さ、精度、……は、一定で均一の製品を作成しうる……」との記載があるだけであつて、右明細書及び図面を検討しても、実用新案登録請求の範囲にはもとより、その他においても、本件考案が右のような特段の構成のものであることを認めうる記載はないから、本件考案に被告の右主張のような作用効果を認めることはできない。

(3) 被告主張の(3)の点について

前掲甲第二号証によると、本件考案が(3)において主張するところの構成を備えていることは明らかである。しかし、被告の主張するこの点に関する作用効果は、ストツパー形成用ダイスをセグメント側にのみ設置することに想到すれば、それによつて当然に生ずるものであつて、それ以上のものではないから、右作用効果も予想外のものということはできず、したがつて、これを本件考案に特有のものということはできない。

(五)  右のとおりである以上、本件考案は、その考案の属する技術の分野における通常の知識を有する者が第一引用例ないし第八引用例、とりわけ、第一引用例ないし第三引用例及び第八引用例のものに基づいて極めて容易に考案をすることができたものとするのが相当である。

三  よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を正当として認容することとする。

〔編註〕本件考案の要旨は左のとおりである。

回転軸3の両側部にねじを形成したローラダイス4を定着し、該ローラダイス4の後方には内面がローラダイス4と同心の凹弧状をなしてこれにローラダイス4と同大同方向のねじを装設したセグメントダイス5を対向させ適宜間隔を形成して配設し、その内側には内面がローラダイス4と同心の凹弧状をなしてこれに縦突条7を設けたダイス6を並設してローラダイス4とセグメントダイス5及びダイス6間に円弧状通路8を形成し、該通路8の上方に被加工材料の丸棒13を間けつ的に一本ずつ自動供給するホツパー9を配設し、丸棒13をホツパー9内に投入し順次ローラダイス4とセグメントダイス5により挾圧してそれらとダイス6の突条7により丸棒13の両端部にねじaとその内側のストツパーbとを同時に形成するようにした両側のストツパー付ねじ加工装置。(別紙図面(1)参照)

〔編註〕本件に関する別紙図面(1)は左のとおりである。

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